フードバンクとは
「フードバンク」という言葉、耳にされた方も多いのではないかと思います。包装の傷みや消費期限に近い食品で、通常は廃棄されてしまうような食品を企業から寄付を受け、必要な方に配給する、というアメリカ生まれの活動です。
セカンドハーベスト・ジャパン(以下、2HJ)CEOのマクジルトン・チャールズ氏は、アメリカ生まれ。日本への留学を経て仕事に就かれるのですが、路上生活者の状況を見て何かできることはないか、と試行錯誤を繰り返し、2000年に企業からの寄付による食品の配給を開始しました。
日本に初めて「フードバンク」という考え方が生まれた瞬間です。
企業との“対等な”信頼関係を構築
企業にとっては、これまで廃棄をしていた分が必要な人へ届けられる、という一見メリットしかないような取り組みですが、活動を開始した当初、賛同してくれた企業は外資系の2社のみ。5年経っても5社に増えた程度でした。
それは、「日本企業は食の安全に対する意識が非常に高くNPOが信用されなかった事や、転売のリスクを懸念していた」こと、「これまで廃棄されたものはリサイクルとして飼料や肥料への取り組みが進んでおり、85%が“再利用”されていることから、ロスへの問題意識がそもそも低い」(田中氏)ことが足かせになってしまっていたようです。
(2HJに食品を提供している企業・団体数の推移)
しかしその後、2011年の被災地支援に取り組んだことが認められはじめ、支援先も急増。そして現在。2013年に企業の防災備蓄への条例ができ、その際に備蓄品として各企業が貯蔵していた食品が賞味期限切れに近くなってきたものが大量に出てきたことで、食品提供企業数は、2015年に789社、2016年には1100社にまで増えました。
誰とでも常に対等な関係を
こうした企業との信頼関係構築にあたり、常に意識をしていることは「対等であるということ」(チャールズ氏)。助けてあげる、という上下関係では活動は長続きしない、と考えているからです。
Photo by ひださとこ
これは2HJが食品を配給する団体や人々との関係上でも意識している、とのことでした。「常に対等。助けてあげる、という感覚は持たない。地域の人も、外国の人も、困っていてもいなくても誰でもいつでも来てくださいね、というのが図書館。皆さん自然に利用しています。そんな図書館のような場にしたい」(チャールズ氏)。
皆同じ、お互い様、という意識から生まれる「支え合う」というあり方が、こうした活動において何よりも大切なことなのだと感じました。
配給、炊き出し、学習支援でのお弁当提供まで
そして取材当日も、大勢の方がスーツケースを片手に、事務所に併設されているパントリーへ食品を受け取りに並ばれていました。野菜、お米、インスタント食品などなど、種類も豊富です。
Photo by ひださとこ
基本的に、1回目は誰でも受け取れることになっていますが、それ以降については、2HJと提携している団体からの証明書が必要です。提携団体との信頼関係を構築しているからこそ、こうして長続きできる活動となっているのです。
Photo by ひださとこ
対象者は、経済的困窮により、充分な食事をとれない状況にある個人や家族。その3分の1が難民などの外国人、その他はひとり親世帯の方々や高齢者、失業などで充分な収入を得られない日本の人達です。食は生きていく上でもっとも大切なライフライン。生活に困った時も、食べ物だけは心配いらない社会の仕組みというのは、生きていく上で大きな安心感に繋がります。
配給の他、路上生活者を対象とした炊き出しや学習支援施設での子ども達へのお弁当提供も行っています。綺麗なキッチンでは、ちょうどこれからお弁当作りを始められるところでした。
Photo by ひださとこ
それぞれの役割をしっかり果たす
2HJは、国や行政との取り組みも進めていますが、国と民間では物事の進め方、考え方、できること・できないことが違います。だからこそ、「より良い社会作りに向けて、市民団体の協力をもっと得てほしい」(チャールズ氏)と国には期待しています。
そして、それぞれの役割をしっかり果たす。机上の数字を見ているだけでは、実際の声は聞こえません。これは私達市民に対しても言えることです。メディアで流れてくるニュースを見て、大変だな、と思っているだけでは、物事の解決には繋がりません。
「支援」と言うと、できることは限られてしまうように感じられがちですが、実は、私達にもできることはたくさんあります。
私達一人ひとりにできること
例えば、2HJでは、賞味期限切れ前の食品であれば一般家庭からの寄付も受け付けています。また、地域のママ同士で食品を持ち寄り、提供の場を設ける、ということであれば、普段の世間話の延長で気軽に開催することもできそうです。
アメリカでは路上生活者は珍しくなく、「子どもへの支援は学校が朝食プログラムを実施したり、パントリー(食品収納スペース)が設けられていたり、教会などで食品の配給が行われているところがたくさんある」(チャールズ氏)ため、助けを求めやすい社会になっています。
一方日本では、6人に1人が貧困と言われても、大多数が普通に生活できているように見える中では「困っている」と声を出しにくい状況です。また、行政と一緒に活動を考えた場合、「みんな同じであることを優先させたり、前例で考えたりするため、なかなか進まない」(チャールズ氏)という問題もあります。
だからこそ、まずは私達市民がもっと地域の中で“自然に支え合える関係”を広げていくことが大切なのかもしれません。
2020年に向けて10万人プロジェクト!
Food for all people~全ての人に、食べ物を~を掲げる2HJの次なる目標は、「オリンピックが開催される2020年までに、新たに毎年10万人に食を届けられるように、日本各地に食品を提供できる場を増やしていく」(田中氏)ということ。
Photo by ひださとこ
あくまでも「公共性のある場にしていきたい」というチャールズ氏の強い想いのもと、これからも2HJの活動は全国各地に広がっていきそうです。そして、こうした活動は特別なことではなく、私達にもできることはあります。
困っている人を特別な目で見るのではなく、「お互い様」の精神で、自分にできることは何か、私達一人ひとり考えてみてはいかがでしょうか。
どんなことができるかな?と思われたら、是非、セカンドハーベスト・ジャパンのHPをご覧ください!
セカンドハーベスト・ジャパンHP http://2hj.org/support/
文 永井佐千子(The World’s Mother Salon代表理事)
「畜産と温暖化を考える/Japan」、「食品ロスを考える(1)/Japan」、日本で話題の“エシカル消費”ってなに?/Japan、など…「地球を守ろうリポート」はこちらからお読みください。
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