ところ変われば?~モンゴルの出産事情

遊牧民の出産や、現在の医療制度、ご自身の体験、そしてモンゴル特有のとてもかわいい文化もご紹介!お母様が産婦人科医のB・ムンフバヤルさんによる、モンゴルの出産に関するレポートをどうぞ。

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「モンゴル・・・。大草原と馬と相撲!」と連想される方が多いかと思います。メディア露出度が高いのが草原と馬に乗った少年、そして大相撲だから無理もないでしょう。

モンゴルの産婦人科事情

今回、モンゴルでの出産の話がシングルストーリーになってしまわないように、体験話に入る前にモンゴルの産婦人科事情に軽く触れたいと思います。モンゴルの医療全体を西洋医学導入前とその後と分けることができます。
西洋医学導入前の妊娠に対する知識は体験話や産婆のアドバイスによるものがほとんどでした。当時のモンゴルは今よりもはるかに広い国だったので、地域性もありますが、お産に対する共通の習慣が多々あります。お産用に離れゲルを控えたり、マッシュルームはお産を促すために使ったり、産後1ヶ月は大事をとったりと。西洋医学がモンゴルに広まってからは毎月検診を受け、お産のために入院する形式が一般的になりました。
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季節や牧草によって転々と引っ越す遊牧民はどうするかというと、住民票のある町の助産師または担当医が訪問検診します。出産日が近づくと町の病院に入院します。病院に駆けつけている間にお産を迎えてしまったというとき以外は病院で出産します。共働きが普通とされる中、母乳育児促進のための手厚い社会制度もあります。

妊娠と出産には不安が付きもの?

さて、私自身の体験をお話しましょう。物心ついた時から産婦人科医の母からあらゆる医学的な話を聞いていましたが、いざ自分が妊娠となったら不安の多いものでした。妊娠や出産に関する書籍を読んでも医学的なものがほとんどで不安を取り除くようなものが少ないように感じました。
70年間の社会主義の名残は医療分野でも大きく、毎月の検診は近くの診療所で受け、出産は住んでいる地区によって4カ所の国立産婦人院か、母子健康研究センターに割り振られるという形です。ここ15年間は私立産婦人科も増え、検診、婦人病治療だけではなく出産も扱えるようになりました。が、妊婦手当を受けるには病院ではなく最寄りの診療所でする妊娠5ヶ月までの記録が必要です。診療所ではパパスクールやママスクールも開催されます。
MONGOLIA - CIRCA 1981: stamp printed by Mongolia, shows retro car, circa 1981.
私は妊娠4週目から切迫流産の恐れがあるということで2週間ほど入院し、1ヶ月の自宅安静をしました。治療も受けましたが、お尻や足を高くするように枕をいっぱい敷いていたのが実に面白くて今となっては笑ってしまう体験です。
妊娠8ヶ月の時は胎盤のトラブルにより、車の運転が禁止なりました。寒さ真っ盛りの2月だったので、最初に思い浮かんだのは「バスやタクシーで通勤って大変!」ということでした。実際やってみると通りかかりの大勢の人々からほめられたり、可愛がられたり、言葉にできないような暖かい眼差しで見られたりすることもあり、なんだか自分がますます誇らしくなってきたものです。
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首都ウランバートル市内 出典:http://akyoblo.com/

いよいよ出産!

赤ちゃんとなるべく長く過ごしたい思いもあり、出産予定日ギリギリまで仕事をしていました。予定日より10日前に産休に入り、胎児が太らないように昼間は床を磨いたり、片付けをしたりと毎日忙しくしていました。ある日、食中毒になったかのようにお腹が痛むのでおかゆを食べて過ごしました。母が様子を見に来てくれた時に、陣痛だと教えてもらい、やっと来る我が子との対面を痛くも楽しくもワクワクしながら待ちました。
次の夜明けには陣痛の間隔が5分になり、渋滞する時間を避けて朝7時半に国立第1産婦人院に行きました。病棟は受付より他が関係者以外立ち入り禁止だったので、入院する妊婦は家族と受付前で離れていました。そして、持参した寝巻きやスリッパに着替え、二人用の陣痛部屋に入りました。1日に出産する人が少なくとも10人ぐらいいるような病院なので、看護師が陣痛部屋まで見に来ることはなかなかないようでした。
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陣痛に違和感を覚えて先生に診てもらうと、すぐに分娩室に連れて行かれました。分娩室は大きく、5台ぐらいの分娩ベッドがありました。カーテンで区切られていたかもしれませんが、覚えていません。入院から5時間後に、予定日より8日間早く待ちに待った我が子に会いました。隣の分娩ベッドでも新しい命が誕生しているのを聞く余裕がやっとできました。
家族は分娩室どころか病室にも入って来られません。受付前の画面に、新生児の生まれた時刻、体重、身長、母の名前が表示されるのを見て生まれたことが分かるそうです。新生児はすぐに係りの医者が診て、軽く洗ってから包んで私に抱かせてくれました。おっぱいを飲ませるようにして、しばらく分娩ベッドにいました。
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病室に運ばれてからも赤ちゃんと一緒でした。母子の体調が順調であれば、次の日に退院できるということでした。さもなければ、後から入院する人たちに十分な部屋がないのです。それだけ、妊婦が多いということでしょう。

モンゴルの伝統的おくるみ

モンゴル特有の文化で、赤ちゃんを包みます。お腹にいた時の感覚に近く赤ちゃんが安心する、高地の草原を吹く隙間風にも赤ちゃんが負けないなどメリットがたくさんあります。
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私は叔母や姉たちを手伝ったこともあるので、赤ちゃんを包むのに自信がありましたし、実は上手でした。でも、なぜか我が子はうまく包めませんでした。
入院中は看護師が手伝ってくれましたが、退院後は一切お包みを使っていません。全館暖房の入ったアパートに住む私にその方が都合よかったのかもしれません。

赤ちゃんとの生活

赤ちゃんが生まれてすぐに予防接種を打ちます。退院1週間を目処に診療所や区役所に届け出をします。赤ちゃんが1ヶ月になるまで診療所の担当医が週1回、診に来ます。1ヶ月になってからは毎月検診に診療所へ行きます。この頃から子ども手当が受けられます。
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働く母は子どもが6ヶ月になるまで有給、3歳までは無給で産休を取ることができます。パパは生まれた日から10日間の育児休暇を取ります。妊婦又は2歳未満の子どもを持つ女性の残業、無断職場移動や解雇は法律で禁じられています。また、子どもが1歳になるまで1日に2時間、2歳になるまで1日に1時間を授乳休暇として与える法律もあります。その恩恵で産後職場復帰も難なく果たし、赤ちゃんとの時間も楽しめました。
最後に、出産や検診にかかる費用ですが、エコー画の印刷以外は国立病院や診療所は無料、私立病院は有料です。出産祝いや病院からのプレゼントは特にありません。私たちの場合、病院から帽子と紙おむつ試しセットをいただきましたが、これは病院によって違うかもしれません。
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最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
プロファイル
B・ムンフバヤル(mugi)
在モンゴル日本大使館、都城市役所、社会福祉法人「つくし会」を経て、現在フリーで活動。
翻訳・通訳、居合道が趣味。1児の母。


ムンフバヤルさんありがとうございました!
妊娠時の不安や心配は万国共通だと改めて知る記事でした。
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